【ジュン】(う、動けなくなる前に……真紅の頭を……。ど、どこだ!?)
もがきながらも真紅の頭を探すが……どれもあわない! これでも、これでもない! クソ!
【ジュン】「!? この感触は……」
僕の手がひとつの頭に触れた。
持ち上げ、ゆっくりと輪郭をなぞる。
この唇……このアイホール……もしかして……!
【ジュン】(真紅!)
こ、これが……。
ついに僕はやったのか?_ついに真紅を……完成させたのか!?
【ジュン】「真……紅……」
【水銀燈】「……あっ」
【ジュン】「どうした?」
【水銀燈】「それ、見せてちょうだい」
水銀燈が指す先を見ると、ショーケースの中には、真紅の紅茶とは別に、黄金色の四角い缶に入った紅茶があった。
【水銀燈】「も、もうちょっとリュックを近づけなさいよ!」
【ジュン】「はいはい……」
よく見えるように、リュックごとショーケースに近づけてやった。
【水銀燈】「これは……」
水銀燈は冷静さを失い、驚愕したようにショーケースを見つめていた。
【ジュン】「……欲しいのか?」
【水銀燈】「……っ! ち、違うわよ!」
【水銀燈】「ちょ、ちょっとばかり、いい趣味の紅茶があったから、この店もなかなかやるものねと、感心していただけよ」
帰るなり、僕は真紅に正座させられた。
理由は、今日のダメだし。真紅はずっと僕のことを見ていたらしく、ふたりきりになるなり、アドバイスという名目で言いたい放題である。
【真紅】「まったく。相手は、貴方のことをチラチラと気にしていたと言うのに、肝心の貴方がそれではね……」
【ジュン】「気にしてたって、斉藤さんが? 僕を?」
【真紅】「ええ。間違いないわ。あの視線は、誰にでも送るものの類ではなかったわ」
【ジュン】「……嘘くさいな」
【真紅】「何か言ったかしら?」
【ジュン】「い、いや何も……」
真紅のこういった感覚は正直、まったくと言っていいほどアテにしていない。
現に斉藤さんが僕を気にかけているのだって、心配してくれているだけだろう。
それ以上はない。おそらく……。
【真紅】「こうなったら特訓よ」
斉藤さんに連れられてきたのは、随分と洒落た感じの喫茶店だった。
いや、最近ではカフェって言うのか?
【ジュン】「…………」
【斉藤】「どうしたの?」
【ジュン】「いや、こういう店、あんまり慣れてないから……」
周りを見ると、女の子同士のお客がいっぱいだ。
そんな中で僕ひとりだけが浮いてるような気がする。
【斉藤】「やっぱり、ちょっと緊張するね。雰囲気あるお店だし……」
【ジュン】「そ、そうだね」
【斉藤】「うん。一度来てみたかったんだけど、ひとりじゃなかなか入る勇気もないし、お兄ちゃんと一緒に……ってのも、ちょっとね」
【斉藤】「それで、ジュンくんと一緒なら行けるかも、って」
【ジュン】「そうなんだ。確かに、初めての人がひとりで入るには勇気がいるね」
こうして頼ってくれたのは嬉しいけど……期待に添えなかったみたいで、ごめん、斉藤さん。